グローバル・サプライチェーンにおける労働者の権利

グローバル・サプライチェーンにおける労働者の権利

労働者の権利とは、グローバル・サプライ・チェーンで働く労働者に与えられる法的権利と人権のことを指します。このセクションでは、労働者の直接的な雇用主や発注元のブランドが行う様々な違反行為について概説します。私たちは国境を越えて労働者の権利を擁護します。これにより、企業がグローバル化したサプライ・チェーンを通じて取引することにより社会的・環境的責任を回避しようとする動きを阻止します。

児童労働

児童労働とは、子どもから子供時代を取り上げ、可能性や尊厳を奪う労働を指す。通常、子どもにとって精神的、肉体的、社会的、道徳的に危険で有害な労働、および/または子どもの就学の機会を妨げる労働が「児童労働」と定義される。児童労働かどうかの定義は、子どもの年齢、労働の種類や時間、労働条件などを制限する各国の規制や政策によって異なる。国際労働機関(ILO)は、雇用または労働に就ける一般的な最低年齢を15歳(軽作業の場合は13歳)、危険な労働の最低年齢を18歳(特定の厳しい条件の場合は16歳)と定めている。ILOによると、児童労働に苦しむ子どもは1億6,000万人(女児6,300万人、男児9,700万人)で、世界の子どものほぼ10人に1人が児童労働者であると推定されている。また、児童労働者の半数近くが危険な仕事に就いている。

団体行動

団体行動とは、労働条件を改善するために労働者が団結して使用者と闘う行為を指す。団体行動は通常同じ職場で行われ、労働者は不満だけでなく力を示すために一緒に行動を起こす。請願書への署名はその一例である。広義には、団体行動とは、同じ目的や目標を共有し、自分や他人の地位を向上させるために行動を共にする人々のアクションを指す。ファッション業界では、消費者、運動家、生産者が単独で戦うことは難しいため、力を合わせ、集団で声を上げることで、職場における労働者の状況を改善できる可能性が高まる。

団体交渉

団体交渉とは、労働者が交渉や組合結成を通じて、給与、福利厚生、労働時間などの労働条件を使用者と交渉するプロセスである。

ILO結社の自由委員会は、ストライキの権利を労働争議のみに限定すべきではないと考える。結社の自由の原則に反する集団行動は禁止されるべきではない。それでもなお、政府、ブランド、サプライヤーは、サプライチェーン全体で結社の自由の権利が確実に守られるよう行動を起こす必要がある。強力な結社の自由があれば、団体交渉の実施によって公正かつ公平な交渉が保証される。団体交渉によって、労働者はより高い賃金、より良い福利厚生、より安全な労働環境を得ることができる。

強制労働

強制労働とは、暴力や脅迫を受けたり、債務を課されたり、身分証明書を奪われたり、入国管理当局に告発すると脅されたりすることによって、強制的に働かされる人々を指す。強制労働は、国家当局、民間企業、または個人によって、成人にも児童にも課されることがある。

結社の自由

結社の自由とは、個人が労働組合などの集団に自発的に加入したり脱退 したりする権利であり、集団が組合員の利益を追求するために集団行動を 取る権利である。コロナウイルスが流行していた期間中、工場はパンデミックを口実にして組織化の動きを抑圧し、労働協約を停止した。労働組合の権利の抑圧は縫製産業全体に広がっており、縫製労働者に壊滅的な影響をもたらしている。労働者は、集団的発言権や保護がなければ、賃金の低下、不安定労働、長時間労働、強制残業、職場における身体的・言葉による虐待など、日常的な権利侵害に直面する。

ジェンダーに基づく暴力(GBV)

ジェンダーに基づく暴力(GBV)とは、個人のジェンダーを理由とする暴力であり、ジェンダー不平等に深く根ざしている。GBVには、身体的、性的、心理的、経済的被害が含まれる。具体的にあ、家庭内暴力や職場における性に基づくハラスメントなどがある。女性と少女がGBVの主な被害者であり、家族や地域社会に深刻で長期にわたる影響を与える可能性がある。

国際労働機関(ILO)

国際労働機関(ILO)は国連の機関であり、187の加盟国の政府、使用者、労働者が対等に発言できる三者構成モデルで運営されている。国際労働法の主要な貢献者であるILOは、すべての女性と男性にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現を目指し、労働基準を設定し、政策を発展させ、プログラムを策定している。

生活賃金

生活賃金とは、労働者とその家族がまともな生活を送ることができ、食料、水、住居、教育、医療、交通、衣服、その他不測の事態への備えを含む必需品の費用を賄うことができる公正な給与または報酬のことである。「アジア最低賃金アライアンス」は、扶養家族の人数、労働者とその扶養家族の栄養ニーズ、住居や教育を含むその他の基本的ニーズなどの要素に基づいて生活賃金を算出している。最低賃金と生活賃金の間には通常大きな隔たりがある。これは、国の最低賃金が、国の競争力を維持し、グローバル・ブランドがその国で調達するようコストを低く抑えるために、しばしば低い水準に保たれるためである。ブランドは、自らの利益を生み出す労働者が尊厳をもって生活できるよう、生活賃金を支払うことを約束する必要がある。

最低賃金

最低賃金は法律用語であり、その額は各国の労働法に従って決定される。最低賃金の額はしばしば、労働者のまともな生活の質を維持できる生活賃金をはるかに下回る。労働組合の交渉力が低い国では、最低賃金も低い水準に押し留められる。

労働安全衛生(OHS)

労働安全衛生(OHS)は公衆衛生の一分野であり、疾病や傷害の傾向を研究するとともに、職場の安全衛生基準の向上を目指している。この分野の知識は、身体的または精神的危害につながる危険を制限するための規制を策定し、実施するために使用される。どの職業にも安全衛生のリスクがあり、労働者が安全に仕事を遂行できるようにすることは、すべての雇用者の責任である。

貧困賃金

貧困水準の賃金と労働者の搾取は、グローバルな衣料品産業に構造的に組み込まれている。

低賃金は労働者とその家族を貧困の連鎖に陥れてしまう。労働者は生活するのに十分な収入を得るために長時間労働を強いられ、危険な労働環境であっても仕事を拒否できず、病気になっても休むことができない。つまり、貧困賃金は労働者の人生から選択肢を奪う事になるのだ。多くの衣料品生産国の最低賃金は、企業を誘致するために貧困レベルに設定されている。

週に6日、あるいは7日働く衣料品労働者は、貯蓄に回すことはおろか、生活していくのに十分な収入も得られないことがほとんどである。そのため、家賃の支払いや医療費、教育費をまかなうためにローンに頼らざるを得ないこともある。貧困賃金はしばしば、劣悪な住宅環境、児童労働、栄養不良、女性に対する暴力などの問題にもつながる。

ラナ・プラザの悲劇

2013年4月24日、バングラデシュの8階建て衣料品製造複合施設ラナ・プラザが崩壊し、1,100人以上の労働者がなくなった。この建物は、複数の衣料品工場、いくつかの店舗、銀行で構成されており、5,000人以上の縫製労働者が雇用されていた。階数を増やしたことと監査の不備により、政府関係者が繰り返し建物は安全だと宣言していたにもかかわらず、この事故は起きた。この悲劇は、形式化したコンプライアンス監査が疑問視されるきっかけとなった。

退職手当

退職手当、または解雇手当とも呼ばれ、雇用主が不本意解雇された労働者に支払う一時金の一形態である。通常、退職手当は、労働者が 1 つの工場で雇用されていた年数に連動して支払われる。生産国によっては、退職手当は法律で義務付けられているが、一部の国では任意であるか、または労働組合が団体交渉によって規定している。退職金は、労働者が新しい仕事を探している間、生活費の支出に対応したり、子供を学校に通わせ続けたりする上での緩衝材となるため、極めて重要である。退職手当の支払いを法律で義務付けている多くの生産国では、労働者が職を転々とする間の生活を支えるための社会保障制度が欠如している。したがって、使用者は退職手当を権利として保護すべきであり、ブランドは確実に支払いが行われるようにするべである。しかし現実には多くの労働者が支払われるべき退職手当を受け取っていない。

「退職金窃盗」

「退職金窃盗」とは、雇用主が従業員に十分な退職金を支払わない状況を指す。縫製産業では、工場閉鎖や労働者の失業時によく見られる現象である。労働者は支払うべき金銭を受け取るまで何年も待つ必要がある場合もあれば、法律で定められた金額を受け取れない場合もある。工場が倒産した場合、または厳しい財政状況にあると主張する場合、法的手段を用いても金銭の返還を請求することは非常に困難である。そのため、生産を委託していたグローバル・ブランドが協力し、労働者が職を失った際に支払われるべき退職金が全額支払われるようにすることが極めて重要である。退職金窃盗の一例として、日本の小売大手ユニクロとインドネシアの縫製労働者2,000人が関わっている現在進行中の事件がある。2014年、ユニクロに供給していたインドネシアの工場ジャバ・ガーミンドで、残業代の未払いや妊娠中の労働者の違法解雇など、数多くの労働違反が報告された。その結果、ユニクロは「品質の問題」を理由に、この工場からの生産撤退を決定した。2015年1月、賃金が満額支払われることがなくなった。3ヵ月後、工場は突然閉鎖され、破産が宣言された。その結果、4000人の労働者が失業し、未払い賃金と退職金で数百万ドルの負債を負った。彼らはかろうじて未払い賃金分を取り返したが、7年以上経った現在も、2000人の元労働者が退職金として法的に支払われるべき550万ドルを求めて運動を続けている。しかし、ユニクロは支払いを拒否し続けている。

ストライキ

ストライキとは、使用者が要求する不合理な労働条件の下で働くことを従業員が集団的に拒否することを指す。ストライキは、賃金の上昇などの経済状況や、労働条件などの労働慣行に応じて、さまざまな理由で発生する。ほとんどのストライキは、使用者が労働者の要求(例えば賃金や手当など)に応じるまで 生産を停止することによって、製造業者にさらなるコストを負わせ、使用者をに圧力をかける権利を要求する。

ILO 結社の自由委員会は、ストライキの権利が、労働者及びその団体が合法的にその経済的及び社 会的利益を促進し、擁護することができる主要な手段の一つであることを認めている。ストライキ行動を通じて追求される要求の性質は、職業的なもの(労働者の労働条件または生活条件の保証または改善を求めるもの)、労働組合的なもの(労働組合組織およびその指導者の権利を保証または発展させることを求めるもの)、または政治的なものに分類することができる。従って、ストライキの権利は、労働協約の締結によって解決される可能性の高い労使紛争に限定されるべきではない。

労働組合つぶし

組合潰しは、労働者が法的に保護された権利である組合結成を妨害することである。一般的な組合潰しの手段には、組合指導者やストライキを行う労働者の解雇、組合を排除するための工場の閉鎖または移転、組合員に対する暴力や脅迫が含まれる。これらの戦術は、労働者が団体行動を行い、より良い労働条件について交渉したり、違反を是正したりする能力を制限することを目的としている。

コロナ禍では、世界的に組合つぶしが増加した。例えば、C&A、ザラ、マンゴー、ベストセラーの衣料品を製造する工場が、組合員や組合を支援する労働者を強制的に職場から追い出した。

賃金窃盗

賃金窃盗とは、雇用主が契約や法律で従業員に当然支払わなければならない賃金を全額支払わない、または権利や労働者の権利を提供しない状況を指す。賃金窃盗には、最低賃金を支払わないこと、残業代を支払わないこと、時間外労働を要求すること、給与の違法なピンハネ、あるいは賃金を支払わないでおくことなどが含まれる。

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